障害のある学生
ダル大で担当した2年生の『公共政策入門』に全盲の学生がいました。彼女は初回の授業の後に私のところにきて、障害者を支援する部署で、教科書を「ブレイル」にしてほしいと言いました。私は「ブレイル」の意味がわかりませんでしたが、おそらく目が見えないことに関する用語だろうと思って分かったと言いました。あとで、「ブレイル(braille)」は点字という意味だとわかりました。
ダル大で障害のある学生はどんなふうに勉強しているのだろう、大学はどのような支援を行っているのだろうと思い、早速、教えてもらった部署に行ってみました。教育学部の中にある特別教育部(Special Education Unit)というところで、大学の図書館と同じ建物の一階にありました。その日は職員は一人しかいませんでしたが、ダル大が目の見えない学生や耳の聞こえない学生にどのような支援を行っているかを説明してもらい、点字を印刷するための機械も見せてもらいました。その職員は手話の専門家で、耳の聞こえない学生と一緒に授業に出て、手話で内容を説明することもあるそうです。昨年その方の手話で学んだ学生が初めて大学を卒業して(通常は卒業まで3年のところ5年かかったそうです)、今は高校の先生をしているということでした。また、目の見えない学生のためにどんなことに気をつけたらいいかというアドバイスももらいました。
ダル大では障害のある学生には、勉強を手伝うために同級生のアシスタントを付けます。耳の聞こえない学生には常に手話のできる職員がつくわけではなく、アシスタントを務める同級生がとったノートを見ながら勉強することもあるようです。実際、私の3年生の担当科目に耳の聞こえない学生がいて、同級生がアシスタントを務めていました。その後何度か特別教育部に行きましたが、点字の専門家など他の職員にも会いました。この部署、目の見えない学生がよく立ち寄っておしゃべりをしていて、とてもアットホームな雰囲気なのでした。
私の担当科目にいる全盲の学生はアシスタント(彼女の場合はアシスタントはダル大の学生ではありませんでした)と一緒に授業に来ることもあれば、一人でくることも多かったですが、いずれの場合も彼女は授業を聞くだけでノートは全くとっていませんでした。後日、この科目で使っている教科書を点字にすることは技術的に難しいことがわかり、教科書をアシスタントに読んでもらうという形で勉強していました。ダル大では、中間試験やセミナーでの発表や議論への参加、リサーチエッセイなどのコースの課題(Course Assignment)で4割以上の成績をとらないと、期末試験を受けることができず、その科目は不合格となってしまいます。私は、彼女は毎回ちゃんと授業に出ていて、セミナーでの発表や議論にも積極的に参加していると聞いていたので、頑張ってこの科目の単位をとってほしいと思い、エッセイのアドバイスをしたり励ましたりしながら様子を見守っていました。最後にはコースの課題をクリアし、期末試験も終えて、無事単位をとることができました。
初めて特別教育部に行った日に、「これまで障害のある学生が大学でどんなふうに学んでいるかほとんど考えたことがなかったことに気づきました」と職員に言ったら、「今が知る良い機会ですよ」と言われたことを覚えています。担当科目の目の見えない学生を通じて、障害のある学生がダル大でどのように学んでいるのかを少しでも知ることができて良かったです。彼女にはあと1年少しの勉強を頑張って、無事に大学を卒業してほしいです。